平成元年生まれの女の子は、もう親の許可があれば結婚できる。
果たしてその子は「昭和」という時代に何を感じるのだろう。
今作の主人公は何と「昭和天皇の影武者・菊人」と「共産党を特高に売り、壊滅させたスパイM」。
昭和天皇が「人の神」である事を否定する事でお役御免になった菊人は、偶然知り合ったMと如何わしい探偵業を始めるが、その彼等の行く先々にアメリカ占領軍の陰謀と力を象徴する列車「オクタゴニアン」が立ちはだかる。まるで闇から来た「ノアの方舟」の様に。
大塚英志は異様に「昭和」にこだわる人間だ。「多重人格探偵サイコ」などの他の作品でも頻繁に「昭和20年」前後をモチーフにした話が多い。彼の中には「もし日本が敗戦しなければ」という強い妄執を感じる。実際その「もしも」が実現した仮想日本を描いたものもある。
徹底的に、戦後の日本がいかにアメリカに支配・蹂躙されてきたかを強調し、平和ボケした日本人を皮肉るスタイルは今作でも一貫している。
だが、「憲法前文」を一般から募集し出版するなど、ややもすると「右寄り」に取れる彼の作品が面白いのは、時折剥き出しになる「青臭い理想」と「センチメンタリズム」があるからだ。
綿密なマーケティングを元に、とことんドライにシニカルにストーリーを展開しながら、巨大な陰謀に一矢報いようと足掻く、力無き底辺の主人公達の行動と言動にはそれが溢れている。
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とにかくまず驚くのは「天皇(と同じ顔の男)」が主人公、という点。実際に本物の天皇も登場する。
この設定を聞いて「タブー」という言葉を浮かべる人はリアルタイムに戦争を経験した世代か、好奇心で「昭和」に触れてきた自分の様な人間だろう。もし祖父や曾祖父がこのマンガを見たら怒りで破り捨てるかもしれない。
戦後など全く実感できない自分ですら、その祖父達の影響が少なからずあった為、天皇がマンガキャラクターとして動き、台詞を喋る様に強烈な違和感を感じてしまった。
つまりそれくらい「昭和天皇」はタブーだったはずなのに出版出来ている現実。
「マンガだから」という偏見を利用してお目零しして貰った、大塚英志の実績w とネームバリューを使った、など色々理由はあるかもしれないが、矢張り現在の日本において、既に「昭和」という時代が「歴史」となり、風化してしまったのだな、と実感する。
ただ、依然として一部の人々にとってタブーである事には変わりなく、出版部数は非常に少ないらしい。売り上げ自体が同日発売した大塚原作マンガの「黒鷺死体宅配便」と一万近くもランキングが違うのはその所為かもしれない。
近所のブックファーストでも「黒鷺〜」は平積み、今作は新作なのに既刊棚、しかも一冊だけ、という妙な状況だった。
ちょうど終戦記念日に近い出版からしても、大塚英志なりの「日本再生」を促す意図を感じずにはいられない今作は、読者が非常に限定される「怪作」であり「問題作」なのだ。
とはいえ、「歴史は常に捏造される」という定番を前提に「下山事件」や「帝銀事件」なども実はアメリカの陰謀だった、という「Xファイル」的な(作者はクリス・カーターをライバル視している)展開はエンターテインメントとして純粋に楽しめ、不器用な主人公達の行動原理には感情移入し易い。
森美夏ほどの魅力ある画風では無いが、PC世代の確かな作画もリアリティを高めている(特に指の描き方が印象的)。
読後、日本云々は抜きにして、ミステリとしての事件を調べたり、昭和初期の闇をモチーフにした松本清張作品などを読んでみるのもいいかもしれない。
とりあえず、リアルタイムでもなく「歴史」とも割り切れない、中途半端に刷り込まれた「戦争の実感」を持つ自分としては、「17歳の日本人」が読んだ今作の感想を妙に聞きたくなってしまった。
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